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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)295号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二 事故状況と過失相殺

被告ら主張三(一)の事実は当事者間に争がない。

右事実と<証拠>によれば、次の事実が認められる。

本件交差点南側には、バス停留所、駐車場が国道下り本線に接して広く設けられ、甲車と清の自転車の進入した側相互の見とおしは良く、事故当時特段右見とおしを妨げるものはない。附近道路は最高速度五〇キロメートル毎時と定められている。交差点附近は街路灯等のため終夜明るい。

被告稔明は、事故前夜現場から二十数キロメートル離れた徳山市のバー等でビール二本、清酒等を飲み、酩酊に気付きながら、甲車を運転した。時速約七〇キロメートル(現場に残されたスリップ痕の長さが29.5メートルであること=争のない事実=によつても推認される。)で進行し、自車前照灯の照射部分外にさほど注意を払わず、また本件交差点の存在も意識しないでこれに近づいたところ、交差点内に清の自転車を認め、直ちに急制動を講じたが及ばず、これをはねとばし、自車も事故地点から約一七メートル進行して漸く停止した。

当時、被告稔明は、呼気一リットルにつき0.5ミリグラムをいくぶん上廻るアルコールを身体に保有し、その影響により眼の充血、強い酒臭が認められ、ふらついて満足に歩行できない状態、したがつて、正常な運転ができない状態にあつた。(右認定に反する乙第二六号証の記載内容は措信しない。)

一方、清もまた前夜飲酒しながら、自転車に乗つていたものである。(右自転車の進行については、明らかでないが、清が十分に注意を払えば、甲車の接近を事前に知り、事故を避け得たものといわなければならない。なお、乙第二二号証は、清のアルコール保有度に関するものか、被告稔明のそれか明らかにできない。)

右事実によれば、

被告稔明には前方注意義務違反のほか、酩酊運転、最高速度違反等重大な過失があり、これらが事故の原因となつているので、その責任は軽くない。

けれども、被害者清も、酒気を帯びて自転車を運転したものであり、交通量の多い幹線国道の交差点において、危険回避のためにとるべき措置を怠り、慢然これを横切つたものといわなければならない。

その他前記諸事情を考慮すれば、清の事故死により原告らが蒙つた損害のうち、被告らにおいて負担すべき分をその3/4を超えないものというべきである。

三 損害

1 清の職業、収入、家族関係等について

<証拠>によれば、次の事実が認められる。

(1) 清は事故当時五七才である。かねてから地方新聞の編集等に従事してきたものであるが、昭和四四年一月以降、防府市の地方新聞周防時事社(松岡桝次経営)に雇われ、記者として編集、取材、広告及び読者の募集等に従事した。その収入は、本給(固定給)月額二万円のほか広告料、新規読者の購売料の各半額とし、固定給とも月額五万円を保障する旨取り決められていたが、現実には、概ね月額合計五万円が支給されていた。(甲第二号証の記載は、証人松岡桝次(第一、二回)、同久保玄保の各証言により認められる作成経緯に鑑み、そのまま信用できない。)

(2) 原告頼雄(昭和一一年生)、同紀子(昭和一五年生)は、いずれも幼時に母を失い、昭和二五年父清の再婚の頃には、児童福祉施設において養育され、いずれもおそくとも中学校卒業頃以降は父の許を離れて生活をしているものである。原告両名はそれぞれ昭和三五年、昭和三六年に婚姻して、父清と生計をともにせず、いわば疎遠な関係といわなければならない。(中略)

(3) 清は、昭和四二、三年頃水ノ上米子(昭和一二年生)と結婚したが(届出はしていない。)、同女は昭和四四年一月精神衛生法に基づく措置として入院して事故時に至つている。

2 逸失利益

前記1(1)の事実によれば、清は事故にあわなければ、なお九年間(持病を考慮すればなお短かくなることは考えなければならない。)稼働し、月額五万円前後の収入を得るものと推認される。

前記1の各事実に鑑み、清は右期間自己の生活費等として右収入の1/2程度の出費を要するとみることができる。

右生活費等を控除した得べかりし利益につき、年五分の割合による中間利息を控除して現価を計算すれば、二三〇万円を超えることはない。

原告らは清の相続人として右逸失利益を相続するが、その額は各一一五万円を超えないことになる。<中略>

3 葬儀費用

<証拠>によれば、原告頼雄は、清の葬儀費用を負担しており、終局的には原告らそれぞれ1/2ずつを負担することとなるものと認められる。右費用のうち、原告らにおいて主張する二〇万円(原告ら各一〇万円)を本件事故による損害と認めるのが相当である。

4 弁護士費用

後記のとおり、本訴請求は弁護士費用の点は格別、その余はすべて理由がないので、特段の事情のない本件では弁護士費用を本件事故に基づく損害として被告らに負担させることはできない。

5 慰藉料

前記1ことに(2)の事実等の事情を考えると、父清の死亡に基づき原告らの受けるべき慰藉料の額は、事故発生についての清の過失を考慮しない場合、それぞれ七五万円を超えないものといわなければならない。

6 結び

原告らが清の死亡に基づいて蒙つた損害額は清の過失を考慮外として、各二〇〇万円を超えない。

そのうち、被告らが負担すべき分は、前記二に述べたとおりその3/4を超えないから、結局、原告らそれぞれにつき一五〇万円を超えないことになる。

四 結論

原告らが自賠責保険から各一五〇万円を受領していることは争がないところ、被告らの賠償すべき額は右金額を超えないので、原告ら損害はすべて既に補填ずみで本訴請求はすべて失当である。訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(高山晨)

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